第3話 「たいそうぎと、ごめんね」

 体育のある日の朝。
 ひろゆき先生は、いつものように教室を見回していた。

「たいそうぎ、もってきた人ー」

 元気よく手が上がる中で、としやくんの手だけが、膝の上で止まったままだった。

「……どうした?」

 としやくんは、少し迷ってから、小さな声で言った。

「きのう、ちゃんとだしたんだけど……
 おかあさんが、せんたく……わすれちゃって……」

 その言葉を聞いた瞬間、
ひろゆき先生の中で、何かが“ピン”と張りつめた。

(あ、これ……)

「としやくん」

 少し、声が強くなった。

「人のせいにしないの。
 忘れ物は、自分の責任だよ」

 教室が、しんと静かになる。

 としやくんの目が、みるみるうちに潤んでいった。

「……ちゃんと、だしたのに」

 そのつぶやきは、ひろゆき先生の耳には、届かなかった。

 結局、としやくんは体育を見学することになった。
 マットの横に座り、みんなの跳び箱を、黙って見ていた。

 ひろゆき先生は、体育を進めながら、何度かとしやくんの方を見た。
 けれど――声は、かけなかった。

(あとで、フォローしよう)
そう思いながら、結局、その「あと」は来ないまま、一日が終わった。


 次の日の朝。
 机の上に置かれた連絡帳を開いたひろゆき先生は、手を止めた。

「昨日は体操服を忘れて申し訳ありません。
私の洗濯のミスです。
悪いのは私たちで、としやは悪くありません。
としやは、先生に『人のせいにしない』と言われ、少し傷ついています。
よろしければ、話を聞いていただけますか。」

 読み終えたあと、ひろゆき先生は、深く息を吐いた。

(……完全に、俺のミスだ)

 「忘れ物=本人の責任」
 そう教えなきゃ、と思った。
 でも、“事実”をちゃんと聞く前に、
“大事な気持ち”を、見落としてしまった。


 朝の会が終わったあと、ひろゆき先生は、としやくんに声をかけた。

「としやくん、ちょっといい?」

 としやくんは、少し緊張した顔で、先生を見た。

 ひろゆき先生は、しゃがんで、目線を合わせる。

「きのうのこと、先生が悪かった。
 ちゃんと話を聞かないで、叱ってしまった」

 としやくんの目が、少し大きくなる。

「としやくんが、体操服を出してたこと。
 それ、先生、ちゃんと分かってなかった。ごめんなさい。」

 しばらく、沈黙があった。

 それから、としやくんが、ぽつりと言った。

「……ぼく、うそ、ついてない」

「うん。先生も、そう思ってる」

 その瞬間、としやくんの肩から、ふっと力が抜けた。

「ありがとう、せんせい」

 その声は、小さかったけれど、まっすぐだった。


 その日の体育。
 としやくんは、いつもより少し大きく腕を振って、走っていた。

 ひろゆき先生は、その姿を見ながら思った。

(子どもに謝れるかどうか。
 それも、教師の大事な仕事なんだな)

 完璧じゃなくていい。
 間違えたら、立ち止まって、やり直せばいい。

 そうやって、学校生活は、また一日、動き出していく。

。※この文章の作成には一部AIを用いております


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