第2話 「来られない朝と、電話の向こう」

入学式から三日目の朝。
教室の出席黒板に、ひろゆき先生はそっとチョークで丸をつけていく。

「……みゆき、さん」

 名簿を見て、ほんの一瞬、手が止まった。

 入学式の次の日から、みゆきちゃんは学校に来ていない。
 連絡帳には、きれいな字でこう書かれていた。

「体調不良のため、お休みします。」

 でも、三日続くと、ひろゆき先生の胸の奥が、少しだけざわつき始める。

(体調……だけじゃ、ないよな)

 都会の大学を出て、初めて赴任したこの田舎の小学校。
 クラスは小さくて、顔と名前がすぐ一致する。
 だからこそ、「いない」ことが、はっきりわかる。

 放課後。
 職員室の電話が鳴った。

「はい、一年一組担任の、ひろゆきです」

受話器の向こうから、少し緊張した、でも丁寧な声が聞こえてきた。

「みゆきの母です。今日は、お時間よろしいでしょうか」

 電話は、思った以上にゆっくり、そして正直だった。

 ――友だちが、まだできていないこと。
 ――知らない環境が、不安で仕方ないこと。
 ――そして、初めての担任が男性の先生で、少し怖いと言っていること

「先生が悪い、ということでは決してなくて……」
 そう前置きしてから、お母さんは言葉を選ぶように話してくれた。

 ひろゆき先生は、何度も「ありがとうございます」と言いながら、メモを取った。
 電話を切ったあと、椅子に深く座り直す。

(……そりゃ、怖いよな)

 背が高くて、声も低めで、スーツで。
 都会育ちで、気づかないうちに早口になっていたかもしれない。

(“なにもしない”ってことが、一番ダメなんだよな)

 次の日の朝。
 ひろゆき先生は、教室の黒板に大きく、ゆっくり書いた。

「きょうは
せんせいの はなし を すこし します」

 子どもたちがざわざわする。

「せんせい、なに話すのー?」
「クイズ?」

 ひろゆき先生は、少し照れながら言った。

「先生ね、じつは……この学校に来るの、ドキドキしてた」

 教室が、一瞬しんとする。

「都会から来たし、田んぼも多いし、道もまっすぐじゃないし……」

「えー!先生もこわかったの?」
 誰かが声を上げる。

「うん。こわかった。
 でもね、ここに来てよかったって、もう思ってる」

 その日、ひろゆき先生は
・朝の会で「一人でいていい時間」を認めること
・無理に友だちを作らせないこと
・席の近くに、話しかけ上手な子をそっと配置すること
を、さりげなく始めた。

 そして放課後、みゆきちゃんのお母さんに、短いメッセージを送った。

「今日は、先生もドキドキしてた話をしました。
みゆきさんが来られるタイミングで大丈夫です。
待っています。」

 返事は、すぐには来なかった。
 でも、その週の金曜日。

 校門のところに、見覚えのある小さな影が立っていた。

 ひろゆき先生は、急いで声をかけなかった。
 ただ、少し離れたところで、にこっと笑って、会釈をした。

 ――来る、来ない、の前に。
 「待っている」という空気を、ちゃんと教室に置いておくこと。

それが、新任教師ひろゆきが、この一週間で学んだことだった。

※このストーリーはAIによる文章も含まれております。また、体験を元にはしておりますが、フィクションとなります。


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